団地・マンション建替え
建物は、メンテナンスをしながら長く使えるほうが、社会経済的にもよいのは当然です。しかし、物理的にも、社会的にも老朽化が進行し、修繕をしても無駄、あるいは危険な状態に至ったならば、建替えを考えるのはやむを得ない判断です。そして、私たちが生活をしている普通の建物は、いずれ建替えの時期がやってきます。
等価交換方式の建替えが成り立たない時代へ
我が国では、阪神・淡路大震災の被災マンションの建替えを除いて、約80件の団地・マンションの建替えが行われています。2例を除き、そのほとんどが等価交換または市街地再開発事業により実施され、区分所有者は建替え資金を負担しないか、もしくは少額の建替え資金を負担することで新築の区分所有建物に入居できるしくみになっていました。
どこのマンションでも、同じようなしくみで建替えができるならば、建替えをめざす管理組合などは、よい条件を出してくれるマンションデベロッパーを探して、組合員の同意を得れば、目的を達することができます。
しかし、等価交換という考え方によって、組合員の建替え合意ができるならば、それは素晴らしいことなのですが、これからはますますむずかしい時代に入っていきます。
建替えコンサルティングの経験と当面の成果物
当社は、平成8年秋から郊外にある団地型集合住宅の建替え問題に取り組んでいます。単棟型のマンションよりも団地型マンションのほうが合意形成という点ではむずかしいのですが、M団地の建替え問題を検討する部会の皆さんとともに、「M団地の建替え基本構想」を取りまとめてまいりました(平成11年度)。
その後、その「基本構想」を具体化することをめざして、行政に働きかけをしましたが、真剣に取り合ってくれません。政治家や学者、管理組合の連合会、他の団地管理組合などにも「訴え」をしました。
折りしも、マンション管理適正化法、マンション建替え円滑化法、建物区分所有法の改正等一連のマンション関連法が整備されることになり、「基本構想」の路線は、今日のマンション問題に的確に対応していることがわかりました。
その後、「M団地X棟建替えモデル事業計画案」の作成にも参加し、
① デベロッパー等に頼るのではなく、自らの責任で、自らの負担で建替える。
② 団地全体で建替えるのではなく、1棟もしくは数棟まとまったところから建替えを行う。
③ 優良建築物等整備事業などの補助制度を活用して、行政の最大限 の援助をお願いする。
④ 以上の事業を、改正区分所有法、マンション建替え円滑化法を活用して実施する。
などを骨子とする報告書を作成しました。
建替えと高齢化など
団地やマンションの建替え問題は、高齢化問題でもあります。例えば、そのマンションを30歳で取得された方は、30年、40年経過し、建替えが検討される時期になってくると、60歳、70歳となり、現役を引退しているかまたは引退間近で老後の生活が心配になってくる時期です。これではなかなか建築資金を負担して建替えに参加するという決断にはなりません。
高齢者の事情を考えると建替えに参加していただくのが大変なことは理解できますが、一方で、エレベーターがないなど高齢者としてもずっと暮らせない住宅であることも事実です。
そうした高齢者の事業参加をお願いするため、行政の支援一般は当然のこととして次のような提案をします。
① 住宅金融公庫の高齢者向け返済特例制度による建替え資金調達、または親子リレー返済制度を活用する。
② 建替え計画の一部に、主としてひとり暮らしの高齢者が、炊事、掃除、洗濯などの家事を委託して暮らせるグループリビングのゾーン(例えば、1階など)を設ける。
③ 建替え期間中の高齢者の仮住まいについては、公的住宅を安く賃貸してもらう。
私どもは、「自宅は自分の才覚で建替える」のは社会的な常識であると考えています。しかし、マンションの建替えは、その形態から多数の区分所有者の合意形成ができなければ何もできませんので、行政が一定の支援をすることは当然のことと思います。
建替えを考える管理組合が、先ほどのM団地の報告書の基本的な考え方と同様な発想を共有することが実際の建替えを検討する第一歩です。
私どもは、コンサルタントとして、これまでの建替えとまったく違う考え方で団地やマンションの建替えに取り組みます。区分所有者の皆さんと一緒に、さまざまな工夫と知とを出し合って、事業化のお手伝いをします。